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京都大学心理学研究会

京都大学心理学研究会シナプスの活動記録です。

記憶(1)

(2/27, 2016)メモ、太字はキーワード

記憶は、過去の経験により得られた情報およびそれを呼び起こす機能である。

 

1.記憶の過程

記憶には、

記銘(符号化):外界からの情報を憶える
保持(貯蔵):記銘により取り込んだ情報を失わずに蓄えておく
想起(検索):保持している情報を思い出す

という3つの過程が存在する。()内は情報処理的観点からの呼び方である。また、想起(検索)に失敗することは忘却と呼ばれる。

 

2.記憶のモデル

アトキンソンとシフリンにより、記憶のモデルとして、長期記憶短期記憶からなる二重貯蔵モデルが提唱された。

長期記憶:半永久的に多くの情報を保存する機能
短期記憶:一時的に少量の情報を保存する機能

外界からの情報は短期記憶を経て長期記憶へ送り込まれる。また短期記憶以前に、感覚器官に入力された情報が短期記憶に送り込まれるまでその情報を保存する感覚記憶もこのモデルの構成要素の1つである。

プロセス:情報→(感覚器官)→感覚記憶→短期記憶→長期記憶

二重貯蔵モデルを支持する有名な根拠の1つに、健忘症という記憶障害がある。脳を損傷し健忘症になった患者には、損傷する前の記憶は憶えていても、損傷後に新たな物事を憶えることができなくなった患者がいる。これは、上記プロセスの内、短期記憶から長期記憶への情報の移行(記銘)や、保持、検索を行う機能の内どこかがうまく働いていないことを示す。

また、自由再生法による実験結果もまた根拠の1つである。自由再生法とは被験者に十数個の単語を提示した後、順番に関係なく自由に単語を思い出してもらう(自由再生)という実験法である。この結果、順番的に最初に提示した単語と最後に提示した単語の再生率は高くなり、最初の単語の再生率が高くなることを初頭効果、最後の単語の再生率が高くなることを親近効果と呼ぶ。

一方で、単語提示の後に被検者に簡単な計算などを行ってもらいそのあとに自由再生をしてもらうと、初頭効果や中ほどの順番の単語の再生率は単語提示直後に自由再生してもらった場合と変わらないが、親近効果は消える。

これらの結果からは、親近効果には保持時間が短い記憶(短期記憶)が、初頭効果や中ほどの単語の再生率には保持時間が比較的長い記憶(長期記憶)が関連していることが示唆され、これが二重貯蔵モデルの根拠となる。

 

3.短期記憶

短期記憶の容量は小さく、7チャンク程度である。チャンクとは、人間が情報を知覚する時の情報のまとまりの単位である。保持時間は数十秒であるが、チャンク化することで忘却の度合いは緩やかになる。短期記憶への記銘は聴覚情報は勿論、視覚情報も音声的な形式で行われる。

 

4.長期記憶

(a)リハーサル
リハーサルは、長期記憶への記銘のために行われる短期記憶と長期記憶での情報のくりかえしである。短期記憶維持のためのあてのない維持リハーサルと、記銘しようという意図の下行われる精緻化リハーサルに分けられ、後者を経た情報の方が記憶成績は良くなる。

(b)処理水準
記銘の際には情報に対し形態、音韻、意味という複数の水準で処理が行われる。単語を覚えることを例にとると、次のようになる。
形態処理:その単語の文字の構成に関する処理
音韻処理:その単語全体での読み方に関する処理
意味処理:その単語の意味の処理

処理水準は形態、音韻、意味の順に深くなっていき、入力時の処理水準が深いほど記銘の度合いが強くなる。

(c)忘却

長期記憶に記銘された情報は時間経過とともに失われていく(忘却される)が、この忘却の原因には、

減衰:記憶痕跡自体が失われるに加え
干渉:保持される情報が後に流入する新たな情報に晒され妨害される

という2つの事態が考えられる。

情報の記銘後に覚醒していた場合と眠った場合で忘却の度合いに違いがあるか調べた実験では、覚醒していた場合の方が眠った場合よりも忘却が早く進むことが明らかになり、この結果は忘却には記憶痕跡どうしの干渉も影響しているということを示唆している。

上記のような不可避の忘却以外にも、記憶痕跡をうまく想起できないことによる忘却も存在する。ワゲナーによる自伝的記憶の研究では、記憶痕跡をうまく想起できないことにより忘却が生じるという仮説が支持された。また、アンダーソンは記銘された情報の一部を想起することで、それに関連する情報が一時的に想起しにくくなる検索誘導性忘却を見出した。

 

(d)想起

長期記憶からの想起には、次のような性質が付随していることが多い。

・体制化:同じ意味・カテゴリに属する情報はまとまって想起されやすい。

・文脈効果:学習者の記銘時の状況と想起時の状況が似ていると想起成績が向上する。

・状態依存性:学習者の記銘時の気分・感情と想起時の気分・感情が似ていると想起成績が向上する。

・転移適切性処理:記銘時の処理水準と想起時の処理水準が似ていると想起成績が向上する。