京都大学心理学研究会

京都大学心理学研究会シナプスの活動記録です。

社会的影響(1)

(2017.3.1 メモ)

社会的影響とは、個人が集団から受ける影響であり、個人はそれを受容することで逆に集団に影響を及ぼしている。

 

 

Ⅰ.二者関係に置ける社会的影響

物理的な他者の存在により課題の成績が上下する現象がある。これは単純な競争心の表れだけでは説明し得ない。
社会的促進:他者の存在により課題成績が向上すること。プラスの影響。
社会的抑制:他者の存在により課題成績が低下すること。マイナスの影響。

Q.社会的促進・抑制のどちらが起こるかはいかにして決まるか?

ザイアンスによる、ハル=スペンスの学習理論に基づく説明。
<ハル=スペンスの学習理論>
①ある刺激に対し学習された反応は最も優勢な反応(最も出やすい反応)から副次的反応(より出にくい反応)まで階層構造を成す。
②学習者の生理的な喚起水準(興奮の程度)が高まると、優勢な反応が一層出やすくなり、副次的な反応は出にくくなる。

これらを仮定として、ザイアンスは次のような推論を行った。

①他者の物理的な存在は個体の生理的喚起水準を高め、その時点で行っている作業での優勢な反応を一層出やすくする。
②単純・習熟した課題の場合、優勢な反応はプラスの反応(上手)であり、複雑・未習熟の課題の場合、優勢な反応はマイナスの反応(下手)である。

結論として、他者の存在が+・-のどちらに働くかは個体の習熟度による
(Ex.楽器を好きな先生の前で発表しようと、嫌いな先生の前で発表しようと、その出来は自分の習熟度による)

ヒト及び他種の動物を対象とする実験によりこの推論がおそらく正しいことが確認されている。

 

Ⅱ.集団における社会的影響の個人的帰結

ここで言う集団は二者以上の構成員を持つ集団。

集団内での似通った行動様式を斉一性と言い、個体が集団の圧力に合わせ行動を変えることを同調と言う。同調に関し、次のような実験がある。

<アッシュの実験>
知覚実験に参加するという体で、7人のサクラと1人の実験参加者をスクリーン前の椅子に座らせる。椅子には番号が付いており、真の参加者が座るのは8番目の椅子である。実験では、スクリーン上に投影されたいくつかの線分の長さを比較し、基準線分と長さが同じものを椅子の番号順に答えるという課題を行う。(従って、真の実験参加者が答えるのは他の7人の答えを聞いた後となる。)ここには、基準線分Sと比較対象の線分A,B,Cがあり、同じ長さのものは明らかにBとわかるようになっている。

S:---------------------------------------(基準)

A:-------------------------------(誤答)

B:---------------------------------------(正答)

C:-------------------------(誤答)

(イメージ)

ここで、7人のサクラが全員Aと誤答する実験状況の場合、真の参加者による全判断の32%でAと回答する同調行動が観察された。

7人のサクラの内1人だけがBと正答する場合、真の実験参加者が全判断の中で多数派(A)に同調する割合は5.5%に落ち込んだ。

また、7人のサクラの内1人だけがCと誤答する場合でも、真の実験参加者が全判断の中で多数派(A)に同調する割合は5.5%程度のままであった

ここから示唆されるのは、個人の多数派への同調が起こるかは「自分の支持者(この実験では、自分の他に正答する人)がいるかどうか」ではなく「自分の他に変わり者(この実験では、多数派Aに同調しない人)がいるかどうか」により決まる、ということだ。これは逆に言えば、ある個人が同調するということは、集団における多数派以外の行動を生起させないということであるため、斉一性を強めることにつながる、ということだ。

 

(続)

【参考文献】

複雑さに挑む社会心理学 適応エ-ジェントとしての人間